朝寝して宵寝するまで昼寝して時々起きて居眠りをする
石田衣良(いしだいら)の小説といえば真っ先に思いつくのは『池袋ウエストゲートパーク
』なのですが、この『REVERSE
』はいわゆる青春小説というよりは恋愛小説です。どちらかといえば甘めの。
ストーリー自体が甘いというのではないのですが、この小説自体のひとつの仕掛けが、この小説を甘いラブロマンスにしていると感じました。
出会いはインターネットのSNS。そういった物語がこれから増えてくるのかそれとも逆になくなってしまうのかわかりませんが、それでも時代の空気感というようなものを切り取ったという部分ではウェストゲートパークシリーズとと共通しているように思いました。
実は「小"倉"千加子」かと思って購入したので、よくよく見てあれ、と思いましたが著作を読むのは2冊目でした。森茉莉
(森鴎外の娘で作家)の担当をされていた編集者で、(正確に言うともう一冊は森茉莉著、小島千加子編の「ぼやきと怒りのマリア―ある編集者への手紙
」という本なので小島千加子の作品としては1冊目ですが)
タイトルに挙げられている作家2人のどちらも「最後の担当者」となった編集者である小島千加子氏の作者への愛、そして仕事へのひたむきさが圧倒館のある筆致で語られる回顧録的なノンフィクション。
私は三島由紀夫と、作品内で言及されている彼の「豊穣の海」については知っていて読んだこともあるのですが、壇一雄については名前しか知りません。ですが、後半の壇一雄についての記述も三島由紀夫と同じかそれ以上の面白さを持って読むことができました。
編集者と作家、そしてその物語とが三者渾然ととなって綴り出される小説作品への深い愛、そして編集者として長く働いた女性としての力強くたしかな足跡が記録されている一冊で。
現代日本を舞台にした小説の短編集であれば、それが興味を引くものでありさえすれば簡単に手に取ることができると思います。現代という時代背景をすでに作者と共有しているという前提が大雑把にしろあるからです。
この『公主帰還』という短編集は中国の歴史についての知識が必要ない、という点でとても読みやすく、そしてそれ以上に面白い作品ばかり収められていました。このところ長い小説を多く読んでいたので、この本の短編小説の『手際のよさ』『鮮やかさ』には本当にはっとします。
同じ作者の本をもう少しいろいろ読んでみたいと思いました。上は中公文庫の版でこちらのほうが新しいようですが、私が読んだのは講談社文庫の公主帰還です。
高校生の頃読んでいた小説が、去年知らない間に完結していたということを知って、あわててAmazonで取り寄せました。
当時はコバルト文庫で読んでいた、若木未生のグラスハート、というシリーズ。
この小説をはじめて読んだとき、私はまだ中学生だったような気がします。ずいぶん長い間待って、もう完結しないのだと思いあきらめていただけに、完結巻が出たというだけでもう感無量。
キャラクターが出てきて、ああもうこの人たちの年齢をとっくに追い越してしまったんだなと、いろいろ思うところがあって。でもエンドマークを見れて良かった。このキャラクターたちにまた会えて本当に良かったと、そう思いました。
いきなりコバルト文庫からノベルスになっているのは、これからノベルスでシリーズが出るからとのこと。1巻だけ既に出ているようですが、全部きちんと出るまではちょっと恐ろしくて買えません……という呪いがかかっています。(既にコバルトの既刊をもっているからなんですが)
タカチ&タックシリーズ(匠千暁シリーズ)の番外編的な作品。もちろんこの2人も登場はするんだけれどもそれよりも他のキャラクターのほうが色濃く出ている感じでした。
飲み会の大好きな先輩が1人で一生懸命物語を回しているような印象。
でもこのコンビの出てくるシーンの鮮烈さは他のキャラクターではやはり出ない気がします。きっとまた、ミステリなんて関係なくてもいいので(というわけにはいかないのかもしれないですが)ふたりが主役の物語が出てくれることを期待しています。
彼らの物語を未読の方は、シリーズのほかの作品から読むことを作者と同じくおすすめします。
『日本辺境論』。この本は、私が書店をうろうろしていたときに、「内田樹」というキーワードからもってして入手に至った本です。この著者は現在大学の教授で、ブログを書いています。私はこのブログをたまに読んでいてこの人の書く文章はそれなりに面白いと思っており、かつ既刊も数冊読んで面白かったから、という理由でこの本を買いました。
そんな軽い気持ちで手に取った一冊です。そうしたら、なんと中央公論新社が主催する「新書大賞」の第3回大賞に選ばれていた。これはさっさと読んでおいたほうがいいんじゃないか、つまり、旬の本を旬のうちに読んでおこうと思ったので慌てて電車の中の時間を利用して読みました。だからじっくりと時間をとって通読というのはできていません。でも付箋はいっぱい貼ってあります。
この本はタイトルで「日本人とは辺境人である」と、結論の70%ぐらいを言ってしまっています。残りの30%はこの新書の23頁、11行目からページの終わりのあたりまでに書いてあります。結論だけわかればいいや、という場合はここだけ読めば大丈夫なんじゃないかと思います。本当にシンプルなこの数行がこの本の主題です。
にもかかわらずこの本は247ページ目まで挿画のひとつ入るわけでもなく文章が詰め込まれています。それは何かというと、内田先生の言葉を拝借するなら「放っておくとすぐに混濁してくる世界像」の「毎日」の「補正」であり、それをさらに例えてしまうと「雪かき」や「どぶさらい」のような、作業である、という。「辺境性」という日本人にとっての「宿命」に対して何とか五分の勝負に持ち込むために「明察を持ってそれを俯瞰」するための手助けをしてくれる本なのだと思います。
ひとつの主題について様々なスケールで論じているという体の本なので、ものすごく乱暴なことを言ってしまえば金太郎飴のようにどこを読んでもちゃんと同じ結論「しか」書いてない。
貼ってある付箋をぱらぱら見返してみると(表現が面白い部分なんかにも貼ってあるのですが)ここはわりと重要なことを言っているような気がする、という部分にだいたい貼っていますが、これがわりとばらけてます。つまり別に最後に特別に重要なことが書いてあるというわけでもありません。ですが、面白かったので最終章をオススメします。本屋さんで手に取るときは23ページ目を読んでから最終章に目を通してみてください。もちろん、他の章がつまらなかったということではないので安心して購入していただいて大丈夫です。(あなたにとってつまらないかどうか、というのは私の範疇外ではありますけれど)
広告代理店勤務の主人公の、仕事、恋愛、そして生き方が語られるコミック。全10巻。
これを読んでいて私は何度もしんどい、とか息苦しい、とか、そういうことに近いような感情を抱きました。主人公の仕事への打ち込みがあまりに真剣で一生懸命すぎて、無言のうちに「私はこれでいいのか」というのを問われてしまったように感じたからです。
おそらくそれを思った原因はこのマンガのあまりにリアルな作り込みに拠るものが大きいような気がしました。作者がかつて働いていたという広告代理店という舞台での仕事、そして仕事をしてゆく上での細かなディティールがさりげなくしかしきちんと地に足をつけたものとして描かれています。
おかざき真里独特の画面構成の美しさ、線の美しさ、カラー絵や本の装丁の美しさ。無駄でも過剰でもなく必要十二分にとられる「間」の空気感。マンガとしてものすごく圧倒されます。こんなものに真っ向勝負で来られて、良いものに出会えたと思わないわけがないのです。
特にカラー絵の雰囲気のある美しさは、これだけでイラスト集を出して貰いたいぐらい。出たら思わず買ってしまいそうです。
そして濃密に描かれるストーリー。主人公はあくまでヒロインとして、けれどそれ以外のキャラクターにもきちんと物語があることが描かれています。
おかざき真里氏は今、子育てしながらマンガを書いているそうです。だからカラーイラストは全部コピックというペンで塗っているとどこかで読んだ記憶があります。ペンならいつでもはじめられて途中でも止められるから、というのがその理由だそう。広告代理店に勤めているときもマンガを描いていたそうです。そのバイタリティがヒロインに色濃く投影されているように思いました。
「こんな風にだったら」。「こうはなれない」。「こういう気持ちってあるなぁ」そんな風に自分と比較しながら、ではなくこの物語を読むことができたらそのほうがもっと面白く読めるのでしょうか。それは私にはわかりません。